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デジタル側もHDXで進化して、アナログのアウトボードを存分に使用できる環境が整ったのだから、そこをつなぐケーブルが適当なものではいけないでしょう。(Goh Hotoda)

OY:マスタリングもこのスタジオで行ったのですか?
Goh Hotoda:すべてここで行いました。マスタリングが出来るようになったのは、ProToolsが10になって位相が完璧にぴたっと揃うようになって、プロセッシングの精度が以前と比べて格段にあがった。そこが一番のポイントですよね。

OY:他にもGohさんは各所で、Pro ToolsのアップグレードはPro Toolsが以前24bitに対応した時や、192khzに対応した時のものよりはるかに衝撃が大きいとおっしゃっています。マスタリングまで出来るようになったというのは、この衝撃が具体的な事象として表れたということなのでしょうか。

Goh Hotoda:そういうことです。32bitの浮動小数点で処理をずっとしているということは、今までの24bit固定だと、よほど上手に録音しないかぎり切り捨てられてしまうような音もきちんと再現する。アナログのアウトボードを使用すると、それが如実にわかります。加えて、PA-08のような低ノイズでクオリティーの高いケーブルが繋がっていれば、そのアナログ機材の個々のノイズまでよく聴こえます。これだけデジタル側の受け皿が優秀であれば、意外と早くアナログのアウトボードを重用する時代が来るかもしれないですよ。

OY:Gohさんのブログを拝見すると、アナログの復活といったことを書かれていますが、それは今までのPro Tools環境ではアナログ機材の良さが十分に引き出せていなかったのだけれども、今回のアップグレードでこの点が解消された結果、ということなのでしょうか。

Goh Hotoda:その点がとても大きいです。それだけではく、Pro Tools10の HDXシステムと「PA-08」でのワイヤリングの組み合わせが絶妙だったということも、確かなんですよ。

OY:先程もお話に出ましたが、ここでマスタリングをするという明確なコンセプトが、最初からあったんですね。作業として従来のワークにプラスされる。

Goh Hotoda:そうそう。単純にスタジオをアップデートするだけではなく、ここでマスタリングをするという目的が明確にあったんです。マスタリングというのは、そのスタジオ独自のミキサーなんかを使用していたりするので、今まではそういった専門的なものを所有している、外のスタジオじゃないと出来なかった。ところがさっきお話した通りPro Toolsをアップグレードしたことで、今まで出来なかったMSマスタリングが出来るようになった。というのは、今まではMS処理をした後のセンターの音とサイドの音に、それぞれ違ったEQやコンプをかけたりすると、位相がズレてしまっていたんです。これではマスタリングは出来ない。Pro Tools10のHDXシステムではまったくそういうことがなく、位相は常にぴったりしている。

OY:技術の恩恵というか、技術の発達を活かしたリニューアルといえますね。普通、オーディオインターフェイスやAD/DAのようなハードウェアの発達こそ技術革新というイメージが強いんですけども、ハードではなく内部処理能力の向上がここまで劇的な結果をもたらして、新たな作業というか、仕事が出来てしまうんですね。

Goh Hotoda:特に内部処理能力の向上は本当に大きい。今までは処理をすればするほど、位相のクロストークや歪みが生じていたのですが、HDXになってその点が解消されたし、中の素材を外にだしてアナログで処理しても、位相の問題が生じない。

OY:この重要な過程を、OYAIDE/NEOの「PA-08」がつないでいるというのは、非常に光栄なお話です。

Exif_JPEG_PICTUREGoh Hotoda:デジタルだけでやれないことはないんだけれど、やっぱりアナログとの組み合わせが重要じゃないですか。デジタル側もHDXで進化して、アナログのアウトボードを存分に使用できる環境が整ったのだから、そこをつなぐケーブルが適当なものではいけないでしょう。これをつなぐケーブルも、デジタルとアナログの良さを損なわないものを選びたかったんです。
それに加えて、このスタジオはOYAIDE/NEOのケーブルが基準になって音作りされていますし、HDX用のHD I/Oからも「PA-08」がつながっているわけです。だから今回アウトボード含めたフル・ワイヤリングをするにあたって、「PA-08」を選ぶというのはごく自然な流れでしたね。しっかりしたケーブルを使わないと太い音も出ません。使用する機材を活かすためのツールとしてのケーブル、という考え方ですね。

OY:こういったデジタル技術の革新がアナログの良さをフックアップして、いわゆるプロレベルで出来ることが増えているという状況は、これから何かが変わっていくという流れを予感させますね。

Goh Hotoda:そうでしょ。だからケーブルもいろいろな使用場面に応じたチューニング、たとえば、プロの現場での忠実性もケーブルの大切な側面だけれども、さらに「AR-910」のような特徴のあるケーブル、”ハイの伸びが秀逸でヴィンテージマイクの足りないポイントを、EQを使わずに音を作れる、”こういったはっきりとしたキャラクターを打ち出していくことも、時代にマッチした手法として間違っていないでしょう。

OY:話はそのマイクケーブルに戻るのですが、銀線の「AR-910」のマイクケーブルはこのスタジオでは常設なんですね。これはNOKKOさんの声の特性にあわせてというチョイスなのですか?

Goh Hotoda:NOKKOの声にというのもありますが、やっぱりマイクの特性を考慮した組み合わせですね。ここのメインのNEUMANNの87Vintageには本当にぴったりです。

OY:このマイクケーブルは実はまだ商品化していないんです。実験的にいろんな現場でお使い頂いてフィードバックを頂いている段階です。ともするとマイク本体よりも高価なものになってしまうかもしれませんが。

Goh Hotoda:それでも、こういうプライベートスタジオのマイク録りの距離だったら、長さも3mから5mくらいでしょうから、良いと思いますよ。というのも、今新しい冒険をしようとしている人達というのは、音楽制作のこういった機材の導入やアップグレードなどに対して、プロデューサーとかミュージシャンといった現場の人間の方が貪欲だとききますね。だから安くて汎用性の高いグローバルなものよりも、「AR-910」マイクケーブルのような的の絞られた製品というのは良いと思う。将来的に「AR-910」はマイクケーブルとしてだけでなく、マスタリングコンソールを導入した際にも試してみたいですね。

OY:そういったマスタリング現場でこのケーブルが使われるというケースは今までないので、是非お話を伺いたいです。

Goh Hotoda:コンソールが設置されたら、「AR-910」を使ったマスタリングについてレポートしますよ。インサートに使用するのでケーブルの特徴やキャラクターが出て来るんです。「AR-910」を使うと、5kとかその辺りの帯域をEQで足したりしなくても、良い結果が得られるかもしれないですね。

OY:そういった点をよく理解していらっしゃらないと、ただハイ上がりでピーキーという印象で終わってしまったりして、うまく使いこなせないこともあり得ますね。

Goh Hotoda:そうかもしれない。以前NOKKOのカバーアルバム作った時も、「AR-910」持って行って録ったんですけど、その時はAKG-451でアコースティックギターも録ったんですよ。ただでさえ明るいキャラクターのマイクなんですけど、さらに輝きが増して。そうするとEQとかあまりしなくていいんですよね。他にはクラシックのホール録音なんかにもいいと思う。

OY:NEUMANN U87のヴィンテージにも良かったし、AKG451にも良かったというのは、キャラクターがはっきりしているのに意外と守備範囲が広い。

Goh Hotoda:特性がしっかりしているから、使いどころや使い方がきちっとしていればすごく有効ですよ。繰り返しになりますが、技術の進化によってそういったケーブルの特性がちゃんと再現されるようになったということなんです。昔だったら3MやAMPEXなどテープにも種類があったり、レコーダーもSTUDER以外にもあった。ある意味受け皿も多かったので、受け側との組み合わせや受け側の問題でケーブルの違いや良さというものが表に出にくかったんだと思います。

OY:今の時代の受け皿、フォーマットのレベルが格段に進化した故に、ケーブルの優劣が如実に出るんですね。

Goh Hotoda:歌を録っても以前であれば歪んでいたものが、HDXのダイナミックレンジの広さというのもあるけれども、ケーブルがようやく持っている性能の本領を発揮しはじめたいうことなんですよ。
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