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「ただ一貫して言えるのは、アナログでのプロセッシングは音が良いですよ。」(Goh Hotoda)

OY:このスタジオは、デジタルもアナログも完全に同じ地平で進んでますよね。現代にマッチするように融合されているというか。とかくデジタルvsアナログという対立軸で物事を語ることが多いのですが。

Goh Hotoda:デジタルの観点から言っても、アナログの長所が存分に語れる今の状況は、裏を返すとごまかせなくなってきているということなんです。結果に出てしまうんですよ。

OY:先程も話にでたbudgetの話にも通じているように思います。

Goh Hotoda:そういうことなんです。ダイレクトに人気が出るとか出ないとか、売り上げがあるとかないとか。たとえばマスタリングによる違いひとつとっても、日本盤と輸入盤で違うこともあるんです。どちらが良いとか、そういうことではなく、やる人によって差がものすごく出るプロセスということなんです。もちろんアルバムという作品によって、手法を変えたりもします。ここではもう2作品マスタリングしましたが、NOKKOのクリスマスアルバムは半分デジタル半分アナログで、デジタル領域を上手く活用して、大きな音を作ったといえます。もう一枚の下地暁のアルバムは、MASELECのマスタリングコンソールとアナログアウトボードだけで、ダイナミックレンジを十分にとって仕上げています。参考に、例えばこの50年代のレコード。これはFairchildでのマスタリングでしょう。おそらく録りも真空管の機材で録っている。

OY:この音は、密度が濃いというか質量があるというか、単純に音が大きい印象を受けます。

Goh Hotoda:そうでしょ。NOKKOのクリスマスアルバムはこれをイメージしてマスタリングしたんです。全体の音の密度もあって、声が大きい。これに対して70年代のクルセイダースはマルチマイクでの録音で分離が上がっている。これもマスタリングはFairchildじゃないでしょうか。そして80年代のPOLICE。この頃3Mのデジタルテープレコーダーが現れて、レンジもひろがってクリアになっていきます。

OY:年代によってという言い方になりがちですが、これは技術の変化がそのまま音楽に反映されていることがわかります。技術年表のような。

Goh Hotoda:さらに時代が近くなるとマルチのチャンネル数も多くなって、扱う情報量が多くなってくる。そこでマスタリングにも知恵と工夫が必要になってくる。そしてレコードからCDに変化していくわけです。でも今まで時代を追って聴いてきて、一番音が大きかったのは、実は最初に聞いた50年代のレコードだったでしょ。それから音をたくさん入れられるようになって音も大きくなるはずなのに、逆にどんどん小さくなってくっていう。ただ一貫して言えるのは、アナログでのプロセッシングは音が良いですよ。

OY:デジタルがダメとか懐古主義なものではなくて、

Goh Hotoda:技術的に今までにないくらい整ったデジタル環境での音作りとして、どういう音を目指すか。それがアナログの音が基準だと僕は思うんです。こういう音楽を作ってさえいれば、絶対人に聴いてもらえると思いますね。でっかい音で聴いても小さい音で聴いてもちゃんと空気を振動させる音楽。ちゃんと空気が振動するためにはそれなりのものが必要になってきます。それにまず場所も必要ですしね。そういう音を鳴らす場所がないというのは言い訳に過ぎないと思うんです。
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OY:Gohさんのやられているマスタリングへのアプローチというか、造詣は、面白いですね。イメージが覆ります。

Goh Hotoda:そうでしょ。音を作るところは非常にクリエイティブなんですけれども、曲を並べたりするのはね、ちょっと事務的なんですよね。フェードをくっつけてPQを打ったりするんですが、ちょっとでもズレちゃうと”書けません”っていうエラーが出ちゃったり。他にもテキストデータを打ち込んだり。

OY:マスタリングは遡るとアナログレコードのカッティングの時のローエンドのコンプ処理だったり、そもそもレコード盤を作る工程であるんですけど。

Goh Hotoda:レコードでいえば針飛びするような盤は、マスタリングが悪いっていうことですからね。

OY:アナログレコードの製作工程から始まって、音圧を上げるとか突っ込むというデジタル時代のもの、今日ではMSマスタリングという積極的な音作りまで発展していて、そこにはもちろんPQを打つという行為もあるわけで。マスタリングという言葉の概念は、人によって捉え方が様々でしょうね。

Goh Hotoda:いろんなイメージがあると思います。それと、配信目的のマスタリングというのもどうかなと思うんです。たとえばCDが売れないからってbudgetも取らずに、その結果クオリティーを下げてしまうということは、しっかりとした機材やデジタルのアップグレード、音を出す環境、こういった現場の音作りに対する重要事項、”クリエイティビティー”を無視する格好になっちゃうんです、どんどん。

OY:それはもう録りやミックスの段階でも言えることですね。

Goh Hotoda:音楽を作る体質とか姿勢とか、そういうところから考えないと。デジタルがダメだ、アナログがダメだって言っているわけではないんです。両方とも上手に使わないといけない、今の時代は。いくらアナログの音が良いといっても、アナログだけで出来るものではないし。

OY:そういう意味でも、このスタジオは確実にうまく融合する方向に向かっているように感じます。

Goh Hotoda:そうですね。ここのスタジオは6年目なんですよ。最初はね、5年たったらどうなるだろう、っていうビジョンを考えてはいたんだけど、マスタリングを自分のスタジオでやるとは考えていなかったですね。それは別種の仕事だと思っていましたから。

OY:そう思いますよね。

Goh Hotoda:ここまでCDが売れないというのも言い方が良くないけど、意図した通りにならなくなってきたならば、自分で最後まで責任持って作らないと。問題を人のせいにできないですよね。人がマスタリングして売れないんだったら、マスタリングが悪いんだって言えるかもしれないけど(笑)。
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OYAIDE/NEOによるワイヤリングの狙いとその効果の話題にとどまらず、普遍的なアナログの利点とデジタル技術の融合、それによって生まれる可能性を察知し、自らプロジェクトを立ち上げて新しい作品を作り出していくという、ダイナミックでリアリティーのあるお話を伺うことが出来た。
いつの時代も音楽に対しフラット、且つ真摯に向き合う氏の現在地をお伝え出来たのではないだろうか。

【Interview & Text:Kenji Takechi, Photo:Daisuke Kurihara 】

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