COLUMN

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やりたいことが割と短い時間で表現できるようになったんだと思うんです。何か意識的に短くしなきゃと思ってやっていることじゃなくて。

 

O Y:またケーブルの話も後で聞かせて欲しいのですが、そのインタビューを読んで知ったんですが、大沢さんエンジニアリングというかミックスってご自分でやられてるんですね。
 S O:かれこれ自分でミックスやるようになってから、もう20年近く経ってると思います。『NEXT WAVE』の頃からだから20年は経ってないかさすがに。でもミックスはエンジニアリングもほぼ自分でやるようになりましたね。『The One』からはもう自分で全部ミックスやってますよ。
O Y:そうだったんですね。『何度でも新しく生まれる』を聴いた時に、本当に音がいいなっていう印象がとても強かったんです。その後の『Attune / Detune』もですけど。大沢さんのミックスのバランスというかサウンドプロダクションが素晴らしいなって。すごく好きなんです。
 S O:恐縮です。
O Y:それで改めて『何度でも新しく生まれる』の楽曲のクレジットを見直してみたら、大沢さんがほぼ全曲ミックスまでやられてることに気付きました。いくつかの楽曲はGo Hotodaさんと一緒にやられてますよね?
 S O:そうですね、Goさんにはボーカルのトリートメントだけ頼んだりしていますね。でも曲のミックス自体は、最終的に全部自分のスタジオで、自分の耳でやるっていうことがもうかれこれ2006年ぐらいからずっと続いてます。

O Y:今回のアルバムもそうですか?
 S O:そうですね。今回のアルバムはもうミックスは全曲完全に自分でしかやってない。1曲だけGoさんにやってもらおうかなと思ったんですけど、ちょっと時間が足りなくて結局自分でやっちゃいましたね。
O Y:なるほど。それで言うと、結構ミックスの雰囲気がまた前作と違うというか。
S O:変わりましたか?
O Y:はい、変わった気がします。音の重心がどちらかというと真ん中に寄ってるというか、そんな気がしました。
 S O:確かにそうかもしれないね。前回も結局最終的にこのスタジオのSSLを使ったんですが。今回またもう一段階サミングした後に、Abeltonに戻す前にFusionていうSSLのアウトボードを使ってるんですよ。この段階でけっこう溜まってしまう低域とか切っちゃってるんで。割とミッドに寄っているって思われるのもなんとなくわかる気がします。
O Y:ではそれって特に意識的に真ん中に寄せたってわけではなく。
 S O:そう、自然に。だから逆の言い方をすると『何度でも新しく生まれる』は、今聴くとちょっと消極的なマスタリングなんですよ、僕にとって。
今回の方が僕の注文に忠実にHerb(Powers Jr.)にやってもらっている感じです。だからマスタリングによるところも大きいと思います。
O Y:なるほど。マスタリングですね。
 S O:結構、中域とかちょっとハイのエネルギーをこうして欲しいとか。何回かやり直してもらってるんで。もうちょっとブライドにしてとか。
O Y:ミックス的にはちょっとロック寄りなのかなって印象も受けたんですが、すごく聴きやすくて。ある意味新しさも感じたし、曲自体も前のアルバムよりいい意味でポップっていうか。
 S O:『何度でも新しく生まれる』の時は、14年ぶりっていうのもあって。リハビリとは言わないけど、そういう気負いみたいな、どこまで何をやっていいのかみたいなところもあったんだけど。今回はもう本当にそういうものが全部振り切れてるっていうね。
O Y:はい、なんだかすごく自由な感じがしました。
 S O:やりたいことやって死のうみたいな感じが出てるかもしれない笑。

O Y:2曲目の満島ひかりさんの歌ってる「IN THIS WORLD」は前作に続いてっていう感じでもちろんですけど、3曲目からの、ermhoiどんぐりずCHAIをフィーチャーしたこの曲の並びで、結構もうアルバムの雰囲気が決まったなっていう感じがしましたね。
それでいうとさっき話していたことにも通じますが、前のアルバムを作ってた頃ってちょうど大沢さんのDJのスタイルがすっかりテクノに移行した後で。音の傾向というかミックスなのか、どこかテクノな雰囲気というかテイストを感じるんですよね。
 S O:なるほどね。
O Y:UAさんが歌ってる「春はトワに目覚める」とかはそれがもろに出てる気がします。
 S O:あれは確かに本当にそうかも。その頃OATHとかでもDJよくしてたんで。OATHのフロアで思いついた曲だったりするんですよ。

O Y:それに対して今作からは逆に、いわゆる大沢さんのDJっぽさというか、テクノっぽさはあまり感じなかった。
 S O:そうですね。ある意味そうなのかもしれない。
例えば、クラブという限られた空間の中で楽しむことと、配信っていうのを前提でDJするのってやっぱり全然違くって。実は僕の中ではプレイ的に言うと配信の方がもっと自由度が高いんですよ。なぜかというと、観る方は配信の向こう側にいて、別に踊ってなくてもいいわけですよね。当然配信でもダンスミュージックをかけてるんですけども。でもその中でも、例えばちょっと踊るのに無理目のトラックでもダンスミュージックとして存在させられるような自由ってあるじゃないですか。そういうのを非常に感じとった2年間でもあるんで。そういうのが自分の制作にもたぶん無意識に出てると思います。
O Y:ちなみにそれで言うと、前作との違いで気づいたところがあるんです。
 S O:はい。
O Y:曲の長さが短いんですよ。前のアルバムって5分超えが6曲もあるんですけど。
 S O:確かにそうかも。
O Y:でも今作は5分越えの曲はなしです。
 S O:ないんだ!?それはもしかしてMONDO GROSSO初かもしれない。

O Y:ということは、それも意識的にやってたのではなく、結果的にそうなっているってことなんですか?
 S O:そうですね。むしろ今までは曲を作っていく中で、長い曲を短くするのにものすごく苦労してたんですよ、実は。今回って曲を作って「よしこれで俺のやりたいことできてる」って思ってから、逆にちょっとこれ短すぎるし、もしかしたらもう少し長くした方がいいんじゃないの?みたいな気持ちになるぐらいで。これって、やりたいことが割と短い時間で表現できるようになったんだと思うんです。何か意識的に短くしなきゃと思ってやっていることじゃなくて。
O Y:なるほど。さっきの配信のこともそうですし、この期間ってDJもクラブの現場でそんなに出来できてないじゃないですか。そういうところの影響とかもあるのかもしれないですね。
 S O:あるかもしれないね、そこは。

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