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「曲に引っ張られて指を動かすんじゃなくて、自分で曲を進めていきたい、という感じです。」(休日課長)

OY:BOHさんから課長への質問で、演奏の時に心がけていることは?への答えで、課長は音に引っ張られないように、と回答していますが、これはどういったことでしょう。音に引っ張られないっていうのは、どの音にですか?
課長:BOHさんはそういう次元にはいらっしゃらないと思いますけど、音が僕を引っ張ってくれるというより、自分が音をリードしたい。音の奴隷になるんじゃなく。
OY:自分の出す音に、ということ?
課長:そうですね。こう、曲が進んで行くじゃないですか、曲に引っ張られて指を動かすんじゃなくて、自分で曲を進めていきたい、という感じです。ちょっと第三者的に自分を見ていて、縄で引っ張られているんじゃなくて自分で引っ張っていきたい。
BOH:それは、例えばリズム的にいうと、前乗りで進めたいってことですか?
課長:いや、そういうわけでもないんですよね。後ろなら後ろで、誰かは先行して音を出してるかもしれないんですけど、そこの後にいくとかじゃなくて、自分の中で刻みがあって、この位置に自分は置きたい、ということを意識してやっている、というイメージですね。
BOH:それを周り任せにするのではなくて、自分の良き位置に、曲によって後ろだろが前だろうがジャストだろうが、そこを目指して自分の理想を組み立てていたい、ということですか。
課長:そうですね、惰性で指を動かすんじゃなくて、というイメージです。そのどこの位置っていうのも、スネアが次ここにきたから、ベースをここに置く、っていう明確に自分でこう音を充てていく、というか。そういう意識ではあると思うんです。
BOH:そういうの、プレイに出てます。こうやって話を聞くと、それがプレイに出てるってすんなり思える。課長が弾いてる音楽って、ベースが目立つタイプの音楽が多いじゃないですか。
課長:はい、まぁそうですね。
BOH:ベースが目立つとなると、やっぱり前へ前へ、ってタイプの人が多いんですけど、それは過去の偉人然りで。ジャコ・パストリアスなんかも前に出る最初のベーシストと言われてますけど、アフタービートで弾くっていうよりは自分が前へ前へ、ってタイプで。これが一番の革命的な要素だったんですよ。
OY:今お話にあがったジャコ・パストリアスですが、お二人にとってはどういう存在ですか?
BOH:いやもう、最初に聴いた時はブッたまげましたよ。何にブッたまげたかって、最初ベーシストで好きになった人ってビリー・シーンなんですけど、その人よりも前にこんなすごい人が、自分が生まれる前にこんなすごいベーシストがいたんだって。その時に日本のテレビの音楽番組とかの音楽と比べちゃって、こういうのってナンセンスなんですよ、でも当時比べちゃったんですよ。海外にはこんなすごいベーシストがいて、こんな音楽が昔っからあるのに、日本人は8ビート弾き?って思っちゃって。全然音楽わかってない生意気なガキだった。
課長:正直、わけわかんなかったですよ。
OY:それはソロをきいて?それともウェザーリポートを聴いて?
課長:ソロです。レッド・ホット・チリ・ペッパーズもそうだったんですけど、最初はあんまりグッとこなくて、ちょっと寝かせておくと後からジワっと、すごい人だなぁ、と。でもジャコパスは好みという点でいうと・・・でした。僕、歌が好きなので、当時インストはそんなにピンとこなくって。その頃、単に自分は女の子の後ろで弾いていたいだけだったし。
BOH:僕も周りがレッド・ホット・チリ・ペッパーズって騒いでる時は全然でした。でも去年一緒にツアーやりましょうってお誘い頂いて、その時のツアー中にいろいろ話したんです。過去からのファンだけじゃなく、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのファンとかお客さんとか関係なく、新しいフェーズに行けるようなベースが弾きたいって。それ聞いて、この人スゲーなと。他のメンバーもフレンドリー、全然名前も知らない日本人のベーシスト(自分のこと)にも、楽屋をガラって開けて、「お前の使ってるベース弦多いな、それ日本製か?日本製はベースもいいのか?」って聞いてくる。
課長:日本製はベースもいいのか、って面白いですね。レッド・ホット・チリ・ペッパーズってMOTHER’S MILKすごく派手ですけど、CALIFORNICATIONは意外と落ち着いてたりする。最近の音楽に近いニュアンスというか、別に派手じゃないベースも全然弾いているし、作品でも次のフェーズへの意識を常に持っていたってことなんですね。
BOH:レッド・ホット・チリ・ペッパーズはなるべく音も重ねないで、3人だけで成立するような音づくりだから、必然的にベースも目立つし、ドラムもボコボコ、ドカドカじゃないし、ギターも音圧のあるギターじゃない。ライブ見てても全部の音がミドルに集中してる。その中でのせめぎあいがあるんだろうね。
課長:そうですね。複雑に絡み合ってますから。ギターとベースでひとつのフレーズを一緒に弾いてるみたいな。
OY:課長は影響を受けたミュージシャンは?にレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーと答えてますね。
課長:僕はベースを始めたきっかけが、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーですから。それはやっぱり、ギターと絡みたい、フルシアンテみたいな素敵なギターと、ふたりで一緒みたいなフレーズを奏でたい、みたいな。
OY:Live at Slane Castleを見て、フルシアンテになりたい、じゃなく、フルシアンテと絡みたい、っていう発想なのが課長なんですね。
課長:そうなんです。他にも影響を受けたベーシストというと、Yes、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、Area、The Beatles、東京事変。
BOH:面白いのは、ここに挙がったプレーヤーの中に課長っぽい人がひとりもいないんです。
課長:あ、それは自分のこだわりの部分で、バックグラウンドが見えないようにしたいんです。なんとかっぽいよね、っていうのを言われたくないんですよ。
BOH:僕はけっこう逆です。ビリー・シーンがベースで早弾きやっちゃったから、ベースで早弾きすると否応なくビリー・シーンっぽいよねって言われるし、ビリー・シーンだったらこう弾くのに、とか言われても全然気にならない。むしろビリー・シーンと比較してくれて光栄ですありがとうみたいな。
課長:僕はそこを隠したくなっちゃうんですよね、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリー好きなんだねって言われたくなくて。実際の現場で弾いてみて、あ、これレッド・ホット・チリ・ペッパーズっぽいからやめよう、とかはないですよ。ないですけど、ある程度かきまぜて出してるぞっていう意地、といったら少し大げさですけど、とにかく僕はそういう性格なんですよね。Yes好きだよね、も言われたくないし。
OY:Yesみたいとは思わないですけど。
課長:でもYesのクリス・スクワイアが一番聴いたベーシストなんですよ。そもそも自分はピック弾きじゃないので違うんですけど、あの人の緩急の付け方というか、音数が多いとこばっか目が行きがちですけど、実はただボーンって弾いてるだけの時もたくさんあって、寧ろそういう要素の根っこの部分を抽出したいんです。
OY:前のインタビューで、Metersとかの音価の長いベース、間の使いかたなんかを気にしてるって話してたことを思い出しました。
課長:間があって、その後詰める、詰める前に間によって流れができる、そういう流れの作り方なんかでベースを聴いている面はあるかも。言ってしまえば、特に注目されない部分ですし、褒めてくれるところではないんですけど、この感覚は自分の中で持っておきたいなと思ってます。
OY:フリーが手数多く弾いてるとこ、じゃなく。
課長:手数が多いことが評価されている人も、そこばっかりクローズアップされがちですが実はそうじゃないと僕は思っています。
BOH:KenKenくんやハマくんなんかはそういう見られ方する傾向があるけど、もっと違う良さがあるよね。でもわかりやすいプレーの方を見ちゃうというか。課長もそういうキャッチーなところをうまく出すから、そのわかりやすさが楽器弾かない素人のところに届く。僕がビリー・シーン好きになったのだってそのわかりやすさだから。そこをうまく利用できる環境にあるならそれはそれでいいし、入り口としての機能はそれでいいんだけど、プロが読むような専門誌も同じところを取り上げるのってどうなんだ?とは思います。
課長:そういう時代になってきているのは歯がゆいですよね。一回雑誌のレビュー記事を読んだ時、◯◯を分析する、みたいな特集あるじゃないですか。その記事内容で、ここはペンタトニックで云々、とかみると、そういうことじゃないんだよ感がすごくて。ペンタトニックかもしれないけど、分析するとこはそこじゃないだろと。本当に素人耳なのか、わかってるけど雑誌上そういうアプローチは仕方ないのか。
BOH:機材、エフェクターとかもそうですけど、これがいい、あれがいい、はもうわかってるんです。聞けばわかるし、好みもあるし。もうちょっと突っ込んで、それをつないでいるケーブルがダメだったら出てくるものもダメだし、電源がダメだと機材もダメだし、そういうことを取り上げる特集とかもうちょっとあってもいいんじゃないですかね。何で動いてるの?なんで音でてるの?があった上で。よく、ベースがダメだからわるい音、とか、このエフェクターはダメだ、とかありますけど、そこに良い電気を供給するとか、機材の良い部分を失わせないケーブルを使ったらどれだけ改善できるのか、みたいなことを、ミクロマクロ両サイドから専門誌がやらないと、やってほしいですよね。
課長:日本自体がわかりやすさだけ、になってる。もうちょっと日本人のマニアックなところ、叙情的表現みたいなのが、また盛り上がるといいなあ。作詞家や作曲家、アレンジャーの持ってる職人気質。歌詞も、「愛してる」とか「会いたい」っていうのと、そう直接的に言わずに連想させるのとは全然違うじゃないですか。あまりにもイチゼロの世界じゃなくてもうちょっとイチとゼロの間を、曖昧なとこを突いていくのが音楽とか文芸だと思ってるんです。

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